さっき、「ADVANTAGE」のライナーノーツをみてみたら、「桐の花」というタイトルで
短編小説が書かれてありました。(そのことはもう忘れてしまっていたのだけれど)
改めて、読み直してみると、とてもいい小説でした。
長崎発京都行きの急行列車。”私”の座席の前に偶然座ったのは二十歳前後の女性。
彼女は、何か”事情”があって、乗車券も急行券も持たず、財布も持っていなかった。
彼女は巡ってきた車掌に、後から連れが間違いなく乗り込んでくるから、それまで待って
欲しいと頼むのだが、車掌は承知しなかった。
懐に当てがあった”私”が、とりあえず、それをたて替えてあげて・・・
その後、乗り込んできた彼女の恋人。彼女から話を聞き、”私”に丁寧にお礼を言った。
おそらく二人はこれから駆け落ちをするところ。
彼女が膝の風呂敷を解いた。
カステラであった。
彼女はたったひとつの引き出物を開くと、その白く細い指で端を千切り、
まず私に差し出したのであった。